本当に恐ろしいことというのは、一瞬で脳内全体が自分の悲鳴で埋め尽くされるような、ありきたりの言い方をすれば心臓が凍りつくような出来事ではない。
本当に恐ろしいことというのは、昼夜を知らず四六時中、得体の知れない薄気味悪さや底知れない不安が頭から離れないことだ。
真の恐怖とは、体験ではなく想像である。
今でも時々後悔することがある。
あの時あの町に行かなかったとしたら、毎日の生活が恐怖に満ちたものに変わることはなかったのだろうと。
少し前の話だが、オレは稲毛で行われた野外ライブの打ち上げに出席していた。
車で行った為に酒は飲まなかったが、気心知れた面子での楽しい一時だった。
この日は朝から開催が危ぶまれるほどの雨で、客席も通常の野外席ではなくステージ最前部の屋根が掛かるスペースに変更されていた。
壊滅的なアクシデントこそ無かったものの、出演者は例年の野外ライブに比べてやはり憔悴しきって終えた一日だった。
その帰り、オレはミックを佐倉の実家まで送るべく車を走らせていた。
朝から出演者達及び会場スタッフを苦しめた雨は、打ち上げ終了の22時になってもまだその勢いを弱めてはいない。
夏場とは言え夜も更けた雨天悪路のドライブ。
もとより嬉々揚々と出発した訳ではなかったが、少なくとも船橋を発った時には自分は冷静であったし、これからの道程に不安や恐怖というネガティブな感情は持っていなかった。
しかし高速を降り、インターチェンジから続く街灯の少ない道を行くに従がってオレは何か奇妙な違和感に駆られていた。
暗い。
田舎とはいえ土曜の夜22時である。
町全体が寝静まるには早すぎないか。
例えばここが畑の真ん中や長く続く山道で、家の灯りを探そうにもその家自体が見当たらないというなら話は分かる。
しかし今走っている場所は寂れてはいるものの町の中だ。
部屋の電気は軒並み消えていて、外灯も点いていない。
・・・この場所は何か、おかしい。
続く。 かも。
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